タ『塔のある家、船着場のある家』
恩田氏は地方都市の雰囲気を描くのが実に巧みだ。本書は特にその特徴が生きている。ご本人が子どものころ、あちこち転々としながら育ったことと無関係ではあるまい。川の流れるまち、塔のある家に住んでいた少女、船着場のある家に戻ってきた美少女、それを眩しく見つめる平凡な少女。彼女たちが集まったとき、遠い昔の出来事がよみがえってくる。母と娘という、恩田氏が追っているのであろうテーマの一つを描いた物語でもある。
本書はちゃんとした答え(純粋なミステリーの結末としてはいまひとつかもしれないが)が用意されている作品なので、「三月は深き紅の淵を」系が苦手という方も安心して読んでいい。
中央公論新社 エ1,890円